てみましょう。
良寛 ほかの家も見あたりませんね。(戸口に行き戸をたたく)もし、もし。
松若 (耳を澄ます)とうさん。だれか戸をたたくよ。
お兼 風の音だろう。
左衛門 この吹雪に外に出るものは無いからな。
松若 いんや。確かにだれか戸をたたいてるよ。
良寛 (戸を強くたたく)もしもし。お願い申します。お願い申します。
お兼 (耳を澄ます)ほんとに戸をたたいてるね。だれか人声がするようだ。(庭におり戸を開く)どなた様で?(三人の僧を見る)何か御用でございますか。
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松若母の後ろより好奇心でながめて立っている。
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良寛 旅の僧でございますが、この吹雪《ふぶき》で難儀いたしております、誠に恐れ入りますが、一夜の宿をお願いいたす事はできますまいか。
お兼 それはお困りでございましょう、もう十丁ほどおいでなされば宿屋がございます。
慈円 あの私たちは托鉢《たくはつ》いたして歩きますものでお金《あし》を持っておりませんので。
良寛 どのような所でもただ眠ることさえできればよろしいのでございますが。
お兼 
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