き、濡《ぬ》れたこころもちが恵みのようにわしをつつむ……唯円。もっとそば近く寄っておくれ。お前の親しい忠実な顔がもっとよく見えるように。
唯円 (ひざをすすめる)あなたのたましいに祝福を。
親鸞 おゝ、お前のたましいに祝福を。お前は一生の間よく私に仕えてくれた……私の枕《まくら》もとの数珠《じゅず》を取ってくれ。(数珠を受け取り手に持ちて)この桐《きり》の念珠はわしの形見にお前にあげる。これはわしが法然《ほうねん》様からいただいたのだよ。(唯円数珠を受け取る)わしが常々放さず持っていたのだ。貫ぬきとめたこの数珠には三世の諸仏の御守りがこもっている。わしがなくなった後この数珠を見てはわしを思い出しておくれ。わしは浄土でお前のために祈っているのだから。(だんだん声の調子がちがってくる)寺の後事はお前に託したぞ。仏様に祈りつつ、すべての事を皆と和らぎ、はかって定めてくれ。この世には無数の不幸な衆生《しゅじょう》がいる。その人たちを愛してくれ。仏様のみ栄えがあらわれるように。(息をつく)
唯円 あとの事はお案じなさいませんように。及ばずながら私が皆様と力をあわせて、法の隆盛をはかります。仏さま
前へ
次へ
全275ページ中260ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
倉田 百三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング