はよく知っているのだがな。浅ましいことじゃ。わしは一生の間|煩悩《ぼんのう》の林に迷惑し、愛欲の海に浮沈しながらきょうまで来た。絶えず仏様の御名を呼びながら、業《ごう》の催しと戦って来た。そして墓場にゆくまでそのたたかいをつづけねばならないのだ。唯円、この大切な時に私のために祈ってくれ。わしはそれを必要とする。わしは心をたしかに保たなくてはならない。一生に一度の一大事をできるだけ、恥を少なくして過ごすためにな。わしはそのために祈っている。空澄み渡る月のように清らかな心で死にたい。
唯円 仏様にお任せあそばしませ。私はあなたのために心をこめて祈っています。(力を入れて)めでたく往生《おうじょう》の本懐をお遂げあそばすよう。
親鸞 死はわしの長い間のねがいだったのだ。ただ一つの希望だったのだ。墓場の向こうに私を待つ祝福をわしはどんなに夢みたことだろう。いまその夢が実となるべき時が来た。めでたい時が。(間)昨夜、私は祈りながら眠りに落ちた。眠りはひとつのありがたい夢で祝された。この世ならぬ、荘厳《しょうごん》と美とに輝く浄土のおもかげがわしの前にひらかれた。わしの魂は不思議な幸福で満たされた
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