ときです。その時お師匠様御近侍の若僧が遊女をめとったとあっては、法敵の攻撃に乗ずる口実ともなります。若い弟子たちの精進《しょうじん》は鈍くなります。日ごろ御発明なあなたです。ここの道理のわからぬことはありますまい。若いあなたがこの決心をひるがえさぬなら、私はあなたにこの寺にいてもらうことはできません。あるいは私が出て行くかどちらかです。だが、たぶん、あなたは私にそのような苦しい思いをさせずに思いとどまってくださるだろう。私はあなたを愛しているつもりじゃ。な。唯円殿、あなたは今は興奮しているからでしょう。思い切ってくださるでしょう。あの女の事はふっつりとあきらめ……おや、あなたは泣いていますね。
僧二 女ではあるまいし。
僧三 いや。思い切られたのでしょう。それでつらいのでしょう。
唯円 私は思い切ることができません。私はもう考え抜いたのです。私は寺の事、法の事、朋輩衆《ほうばいしゅう》の事も考えないのではありません。けれどあの女を振り捨てる気にはなれません。あの女に罪はないのですもの。振り捨てねばならない理由が見つからないのですもの。私はどうしても恋を悪いものとは思われません。もし悪い
前へ 次へ
全275ページ中209ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
倉田 百三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング