事はなくてよ。ただあなたがいとしいだけよ。何もかも耐え忍ぶよりほかありません。あきらめるよりほか――あゝ、あきらめるという心持ちはなんてさびしいこころでしょう。
かえで わかっててよ。ねえさん。(涙ぐむ)あなたがいてくださらなかったら、私はこれまでどうなっていたかわかりませんわ。私はお腹《なか》の内では手を合わせて拝んでいますわ。
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両人沈黙。鼓の音だけきこえる。
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かえで (欄干のそばに行き外をながめる)ねえさん来て御覧なさい。東山から月が出るところよ。
浅香 (かえでのそばに行き欄干にすがる)山の縁《ふち》がぽーっと明るくなっていますね。
かえで 向こう岸の灯《ひ》の美しいこと。
浅香 橋の上を人影がちらほらしていますね。
かえで 私はあのようなところを見ると変に人なつかしい気がしますのよ。
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しばらく黙って夜景を見ている。
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浅香 きょうはどこで会ったの。
かえで 黒谷様の裏手の墓地で。
浅香 うれ
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