はならないとは! いや、今ではもうそのような事を考えなくって、ただ習慣《しきたり》で、夕方ごとに鏡に向くのだ。それも自分の色香に自信があった間はまだよかったのだけれど。(間)髪の毛の抜けること。(櫛から髪の毛を除く)弱いからだを資本《もとで》にして、無理なからだの使い方をして働けるだけ働き抜いて、そして働けなくなったら――(身ぶるいする)えゝ、考えまい。考えまい。
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ほかの座敷から鼓の音がきこえて来る。かえで登場。浅香を見ると声をあげて泣く。
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浅香 (かえでのそばに寄り、のぞき込む)かえでさん。どうしたの。かえでさん。
かえで あんまりです。あんまりです。(身をふるわす。簪《かんざし》が脱けて落ちる)
浅香 どうしたのだえ。だしぬけに。(簪をさしてやる)まあおすわり。(かえでを火鉢《ひばち》のそばにすわらせる。自分もそのそばにすわる)
かえで (泣きやむ)おかあ[#「かあ」に傍点]さんにひどくしかられたのよ。帰ると呼びつけられて。私が悪いのよ。おそくなったのだもの。でも帰られなかったのよ。けれ
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