るね。鳩《はと》もいるよ。皆泣いてるね。どうしたのだろうね。
お兼 お釈迦様は慈悲深いおかたで畜生《ちくしょう》でもかわいがっておやりなされたのだよ。それでかわいがってくれた人が死んだので皆泣いているのだよ。
松若 ふむ。(考えている)
左衛門 (登場。猟師の装いをしている。鉄砲をかつぎ、腰に小鳥を二、三羽携えている)帰ったよ。ばかに寒い。
お兼 お帰りなさい。待っていました。寒かったでしょう。降っていますか。(戸のそばまで出て迎える)
左衛門 大雪だよ。このぶんでは道がふさがってしまうだろう。(雪を払う)
松若 とう様。お帰りなさい。(手をつき頭をかがむ)
左衛門 うむ。(頭をなでる)きょうはお師匠様とこのおふるまいだったってな。
松若 あい。よく知ってるね。
左衛門 吉助《きちすけ》かたで吉坊に聞いて来た。
お兼 あの話の首尾はどうだったの。(鉄砲を塀《へい》にかけ、獲物をかたづける)
左衛門 まるでだめだ。きょうはさんざんな目にあった。朝から山を駆け回ってやっと雑鳥が三羽だろう。それから吉助の宅《うち》に寄ったが、あのやつずるいやつでね。わしが強く出ると涙をめそめそこぼして拝み倒
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