からあたりを見回し仏壇の前に行き、立ったまま不思議そうに仏像を見る。それからすわってちょっと手を合わせ拝むまねをする。それから卓の上の本を捜し、絵本を一冊持って炉のはたにきたり、好奇心を感じたらしくめくって見る。
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お兼 (登場。前掛けで手をふきつつ)おいしかったろう。(間)何を見ているのだえ。
松若 うむ。おいしかったよ。(熱心に絵本に見入る)
お兼 今の間《ま》に少し裁縫《しごと》をしよう。(炉のはたに近く縫いさしの着物を持ちきたり針を動かす)
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両人しばらく沈黙。
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松若 かあさん。これなんの絵だえ。
お兼 (針を止めて)お見せ。(のぞき込む)それはね、お釈迦《しゃか》様という仏様がおなくなりなさった絵だよ。(針をつづける)
松若 そうかい。衣《ころも》を着たたくさんの坊さんがそばで泣いているね。
お兼 みんなお弟子《でし》たちだよ。偉いお師匠様がおかくれなされたのだからねえ。
松若 ふむ。猿《さる》だの蛇《へび》だのい
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