へ行かれた。もうおっつけお帰りだろう。
松若 吉助のうちの吉也は私をいじめるよ。きょうもお稽古《けいこ》から帰りに、皆して私の悪口を言って。
お兼 え。悪口をいっていじめるって。ほんとかい。
松若 松若のおとうさんは渡り者のくせに、百姓をいじめたり、殺生《せっしょう》をしたりする悪いやつだって。
お兼 まあ(暗い顔をする)そんな事を言うかい。
松若 うむ。宅《うち》のおとうさんをいじめるから、私はお前をいじめてやると言って雪をぶっかけたよ。
お兼 悪いことをするやつがあるね。大丈夫だよ。私がお師匠様に言いつけてやるから。
松若 いんや。私が一度お師匠様にいいつけたら、帰り道によけいにいじめたよ。(残念そうに)道ばたの田の中に押し落としたりしたよ。
お兼 まあ。そんなひどい事をするかえ。心配おしでないよ。私が今によくしてあげるからね。
松若 うむ。(うなずく)
お兼 (戸棚《とだな》から皿《さら》に干《ほ》し柿《がき》を入れて持ちきたる)さあ、これをおあがり。秋にかあさんが干しておいたのだよ。私はちょっとお台所を見て来るからね。(裏口から退場)
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松若柿を食う。それ
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