ゝお帰り。寒かったろう。さあおあたり。きょうはたいへんおそかったね。
松若 (炉のそばに行く)お師匠様のうちでごちそうが出たの。皆およばれしたのだよ。それでおそくなったの。
お兼 そうかえ。それはよかったね。お行儀よくしていただいたかえ。
松若 あゝ。わしの清書が松だったのだよ。
お兼 そうかえ。それはえらいね。草紙をお見せ。この前の清書の時は竹だったにね。(松若より草紙を受け取り、広げて見る)なるほど、「朱に交われば赤くなる」だね。だいぶしっかりして来たね。も少し字配りをよくしたらなおいいだろう。丹誠《たんせい》してお稽古《けいこ》したおかげだよ。(松若の頭をなでる)
松若 吉助《きちすけ》さんとこの吉也《きちや》さんは梅だったよ。
お兼 あの子はいたずら好きでなまけるからだよ。(間)あの、ちょいと立ってごらん。(松若立つ。ものさしで丈《たけ》を測る)三寸五分だね。ではあげを短くしなくては。お前の荷物だよ。よくうつるだろう。お正月にこれを着てお師匠様の所に年始に行くのだよ。
松若 お正月はいつ来るの。
お兼 もう十二日寝ると来るよ。
松若 おとうさんは?
お兼 おとうさんは吉助殿の所
前へ 次へ
全275ページ中14ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
倉田 百三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング