そうとするのだよ。それでいてこっちが優しく出ようものなら、ひどい目にあわせるのだからね。全くこの辺の百姓は手に合わないよ。(着物を着換え、炉のそばに寄る)
お兼 それでどういう話になったの。
左衛門 正月までに払わなければこっちはこっちの考えを実行するからそう思えときめつけてやったよ。そしたら吉助がまっさおになったよ。おふくろはすがりついてことわりをするしね。吉也《きちや》までそばで泣きだしたよ。
お兼 まあかわいそうではありませんか。も少し待っておやりなさいな。あの宅《うち》でもほんとうに困っているのでしょうから。
左衛門 どうだか知れたものではない。わしはあの吉助《きちすけ》が心からきらいなのだ。腹の悪いくせにお追従《ついしょう》を使って。この春だってそ知らぬ顔で宅《うち》の田地の境界を狭《せば》めていたのだ。
お兼 それは吉助も悪いには悪いけれど、そうなるのもよっぽど困るからのことですわ。
左衛門 困ると言えば宅《うち》だって困ってるではないか。こっちに移って来てからというもの、不運つづきで、少しばかりの貯《たくわ》えで買った田地は大水で流れるし、松若は病気をするし、なかなか楽な
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