うではありません。
かえで 堪忍《かんにん》してください。(手を合わす)
唯円 私が悪いのです。(手を解かせる。そのままじっとかえでの手を握っている)無理にうそを言わなくても、ありのままをお師匠様に打ち明ければいいのです。私が勇気が無いのがいけないのです。
かえで だってそんな事を打ち明けたらしかられはしなくって。
唯円 私たちは悪い事をしているのではありません。私たちはその自信を何よりも先に持たねばなりません。かえでさん。いいですか。卑屈な心を起こしてはいけませんよ。
かえで だってあなたは坊様でしょう。そして私はあれ[#「あれ」に傍点]でしょう。女のなかでも人様に卑しまれる遊女でしょう。
唯円 僧は恋をしてはいけないというのは真宗の信心ではありません。また遊女だからとて軽蔑《けいべつ》するのはお師匠様の教えではありません。たとえ遊女でも純粋な恋をすれば、その恋は無垢《むく》な清いものです。世の中には卑しい、汚れた恋をするお嬢さんがいくらあるか知れません。私はあなたを遊女としてつきあってはいません。あなたも私を客としてつきあってはいないとさっき言いましたね。私はあれはありがたい気がし
前へ 次へ
全275ページ中155ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
倉田 百三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング