ました。実際あなたは純潔な心を持っているのだもの。私はあなたを愛します。(手を強く握り締める)
かえで でも私は、私は……(涙をこぼす)私のからだは汚れています。(袖《そで》で顔をおおうて泣く)
唯円 (かえでを抱く)かえでさん。かえでさん。
かえで 私を捨ててください。私はあなたに愛される価値《ねうち》がありません。私は汚れています。あなたは清い清い玉のようなおからだです。私はすみません。私は泣いて耐え忍びます。これまで何もかもこらえて来たのですもの。私は一生男のなぐさみもので終わるものと覚悟していました。その侮辱さえも私の運命としてあきらめる気でした。あきらめないと言ったとてしかたはないのですもの。私に力が無いのですもの。また皆が私にそうあきらめさせるように仕向けるのですもの。どのお客も、どのお客も皆私をなぐさみものとして取り扱いました。そして私に自分をそう思えよと強《し》いました。私はそれにならされました。自分はなぐさまれる犠牲《いけにえ》、お客は呵責《かしゃく》する鬼ときめました。あなたは私を娘として取り扱ってくださった最初のかたでした。私でも人間であることを教えてくださった最
前へ 次へ
全275ページ中156ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
倉田 百三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング