そばに寄る)私少し家《うち》の都合が悪かったものですから。でも急いで走るようにして来たのよ。(息をはずませている)
唯円 私はもしか出られないのではないかと気が気ではありませんでした。
かえで 出られないのを無理に出たのよ。でもあなたとあれほど堅くお約束しておいたのですもの、あなたを一人待ちぼけにすることはどうしたって私にはできなかったのだわ。けれどきょうは早く帰らないと悪いのよ。
唯円 来るとから帰る話をするのはよしてください。(かえでの顔を見る)どんなに会いたかったでしょう。
かえで (唯円に寄り添う)私も会いたくて、あいたくて。(涙ぐむ)
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両人ちょっと沈黙。
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唯円 ここにすわりましょう。(草をしいてすわる)
かえで (唯円と並んですわる)人に見られはしなくって。
唯円 めったに人は通りません。通ったっていいではありませんか。悪い事をするのではなし。
かえで でもきまりが悪いわ。
唯円 ずいぶん久しぶりのような気がします。この前|松《まつ》の家《や》の裏で別れてから何日目でしょう。
かえ
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