のために祈ってやってくれ。
唯円 私も祈らせてもらいます。あゝ、しかし、なんというさびしいお心でございましょう。
親鸞 これが人間の恩愛の限りなのだ。
唯円 私はたまらなくなります。人生はあまりにさびし過ぎます。
親鸞 人生にはまだまださびしい事があるのだ。人は捨て難いものをも次第に失うてゆくのだ。私もきょうまでいかに多くのものを失うて来た事だろう。(独語のごとくに)あゝ、滅びるものは滅びよ。くずれるものはくずれよ。そして運命にこぼたれぬ確かなものだけ残ってくれ。私はそれをひしとつかんで墓場に行きたいのだ。(黙祷《もくとう》する)
唯円 あゝ、私はおそろしくなりました。
[#ここで字下げ終わり]
[#地から4字上げ]――幕――
[#改ページ]

    第四幕

      第一場

[#ここから3字下げ]
黒谷墓地
無数の墓、石塔、地蔵尊等塁々として並んでいる。陰深き木立ちあり。ちょっとした草地、ところどころにばら、いちご等の灌木《かんぼく》の叢《くさむら》。道は叢の陰から、草地を経て木立ちの中にはいっている。
[#ここから5字下げ]
人物 唯円《ゆいえん》 かえで 女の子、四人

前へ 次へ
全275ページ中148ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
倉田 百三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング