に心がひかれたのらしいのです。私をお呼びなさるもあなたの身辺の御様子が何くれとなく聞きたいためなのですよ。
親鸞 実は私もあの子の事はいつも気になっているのだ。ことにあの子の母の事を思い出すと時々たまらなくなることもあるのだ。あの子の不幸なのも私に罪があるような気がしてな。
唯円 私はその事についてもきょう善鸞様から伺いました。
親鸞 善鸞はなんと言いましたか。
唯円 何事も人生の悲哀と運命だ。父を責める気はないとおっしゃいました。
親鸞 ふむ。(考える)やはり私の罪――過失だよ。そう言うことを許してもらえるなら。朝姫をも――あの子の母の名だよ――私は隣人として取り扱う気だったのだ。けれどついにそうはゆかなくなったのだ。私が弱かったのだ。おとなしい、けれどもいちずな朝姫の熱いなさけにほだされたのだ。北国の長い巡礼で私の心は荒野のようにさびしくなっていたからな。私はなぜなくなった玉日の記憶を忠実に守って独《ひと》りで暮らすことができなかったのであろうか。それを思うと自分を責める心に耐えない。私は苦しい。
唯円 …………
親鸞 けれど朝姫は責めるにはあまりに善良な温和な女だったよ。弱々しい
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