ように勧められたのに、あなたは一人かばっておあげなされました。なぜ善鸞様にばかりきびしいのですか。私はわかりません。あなたは常々私におっしゃるには私たちは骨肉や夫婦の関係で愛するのは純な愛ではない。何人をも隣人として愛せなくてはならないと教えてくださいました。それならあのかたも一人のあなたの隣人ではありませんか。その隣人をゆるすのは美しい事ではありませんか。私はこれまで一度もお師匠様に逆ろうた事はありません。けれどこの事ばかりは逆らわずにはおられません。私の一生の願いでございます。隣人としてあのかたに会ってあげてください。
親鸞 (涙ぐむ)お前の心持ちはよくわかる。私はうれしく思います。(考える)善鸞は会いたいと言いますか。
唯円 初めは、今私が父に会うのは父のためにならないとおっしゃいました。けれどお別れする時におとう様が会うとおっしゃればどうなされますときいたら、喜んで会うとおっしゃいました。
親鸞 私を恨んでいたろうね。
唯円 いいえ。あなたにすまないすまないと言っていられました。そしてあなたの事をいろいろ案じてお聞きなされました。今度|御上洛《ごじょうらく》あそばしたのもあなた
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