感じを与えるほどだったよ。その裏には強い情熱がかくれていたけれどね。私が京に帰るときにどんなにはげしく泣いたろう。
唯円 もうおかくれあそばしたのですってね。
親鸞 うむ。(間)私はもう幾人《いくたり》愛する人に死なれたか知れない。慈悲深い法然《ほうねん》様や貞淑な玉日や、かいがいしいお兼さんや――
唯円 あの孝行な御嫡男《ごちゃくなん》の範意《はんい》さまや。
親鸞 (目をつむる)みんな今は美しい仏様になっていられるだろう。そして私たちを哀れみ護《まも》っていてくださるだろう。生きているうちに私の加えたあやまちは皆ゆるしていてくださるだろう。
唯円 逝《ゆ》くものをさびしく送ったこころで、残るものは仲よくせねばならぬと思います。それにつけても善鸞様を一日も早くゆるしてあげてくださいまし。
親鸞 私はゆるしているのだよ。あの子を裁くものは仏様のほかには無いのだ。
唯円 では会ってあげてくださいまし。
親鸞 …………
唯円 お師匠様。あなたはほんとうは会いたいのでございましょう。
親鸞 会いたいのだ。(声を強くする)放蕩《ほうとう》こそすれ私はあの子の純な性格も認めて愛しているのだ。私は
前へ
次へ
全275ページ中144ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
倉田 百三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング