すがって頼みます。どうぞ善鸞様をゆるしてあげてください。善鸞様と会ってください。
親鸞 …………
唯円 私はたまりません。善鸞様は善《よ》いかたです。不幸なかたです。だれがあのかたを憎む事ができるものですか。皆が悪いのです。世の中が不調和なのです。皆が寄ってたかってあのかたをあのようにしたのです。あのかたはあなたを愛していらっしゃいます。どうぞ会ってあげてください。ゆるしてあげてください。私がすぐに行ってお連れ申します。どんなにお喜びなさるか知れません。
親鸞 (苦痛を制したる落ち付きにて)お前は善鸞と会いましたか。
唯円 私は会いました。きょう善鸞様からお使いが来て私はあなたに内緒で会いに行きました。私はうそを申しました。私は木屋町に用たしに行くと言ったのは偽りです。善鸞様は木屋町にいられます。私はうそを申しました。
親鸞 善鸞はどうしていましたか。
唯円 (思い切って)私が行った時には遊女や太鼓持ちとお酒を飲んでいられました。
親鸞 そのような席にお前を呼んだのか。純な、幼いお前を。放縦《ほうしょう》な人は小さいものをつまずかすことをおそれないのだ。
唯円 でも善鸞様はこのような所
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