るなら。あなたはずっと前にあなたの生涯《しょうがい》の運命をきめるあぶない時に、今と同じ別れ道にお立ちなされたのではありませんか。おいとしいあなたの恋人と、おとなしいお従弟《いとこ》との一生の平和を守ってあげねばならないときに、あなたはお弱うございました。人をも身をも傷つけたとあなたは私におっしゃいました。なぜあの時泣いて耐え忍ばなかったろうと、あなたは幾度後悔なすったでしょう。たったきょうの昼間です。あなたが初めて、あなたの悲しい物語を私に打ち明けてくだすったのは。あなたは私の膝《ひざ》の上でお泣きなされました。まだ涙もかわかぬくらいです。その時あなたは私があわれな父母の犠牲になっている事をほめてくださいました。他人をしあわせにするために、苦しさを忍べとおしえてくださいました。
善鸞 お前は私の言葉をそのまま繰りかえすのだ。
浅香 (泣く)あなたに鞭《むち》をあてるのです。私のことばの強そうなこと。
善鸞 私の良心の代わりになってくれたのだ。
浅香 おいとしい善鸞様。
善鸞 そうだ。私は強くなければならない。かわゆいやつ。(浅香を強く抱く。舞台回る)
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