にやれとおっしゃいました。
善鸞 ふむ。
唯円 私はあなたに聞こう聞こうと思っていましたが、あなたはどうして御勘当の身とおなりなされたのですか。
善鸞 (暗い顔になる)私は道ならぬ恋をしたのです。いや、道か、道でないかは私は今でもわからぬのです。私は人妻と恋をしました。
唯円 まあ。
善鸞 女は結婚せぬ前から私を恋していたのです。この世の義理が私の手から女を奪いました。しかし私の心から恋を奪う事はできなかったのです。その後の出来事はその矛盾の生む必然的な結果でした。女の夫は私の親戚《しんせき》でした。それが悲劇を複雑にしました。私は恋ゆえに道を破った悪人になりました。(ののしるように)恋が道を破るのか、道が恋を破るのか私は今でもわかりません。
唯円 女のかたはどうなされました。
善鸞 離《さ》られてから病気になりました。私は会う事も許されませんでした。ついに女は死にました。私は死に目にも会えなかったのです。
唯円 女の夫のかたはどうなされました。
善鸞 泣いて怒りました。今でも二人の名を呪《のろ》っています。私はその人の事を思うとたまりません。私はその人を愛していました。おとなしい、善
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