ん。私は喜んで来たのです。
善鸞 私はさびしかったのです。だれも私の心を理解してくれる人はありません。私はこうして酒を飲んでいても腹の底は冷たいのです。私は苦しいのです。私はこのあいだあなたと会った時から、親しい、温《あたた》かい気がするのです。私の胸の思いをすらすらと受けいれてくださるような気がするのです。あなたと向き合っていると、いろいろな事が聞いていただきたくなるのです。
唯円 私もこのあいだあなたと別れてから、あなたの事が思われてならないのです。あなたにお目にかかりたいといつも思っていました。あなたから使いの来た時にどんなにうれしかったでしょう。
善鸞 こんなに人をなつかしく思った事はずっと前に一度あったきりです。長い間私は心がすさんで来ていました。(間)私はあなたが好きです。
唯円 私はうれしゅうございます。あなたのようなかたをなぜ人は悪く言うのでしょう。私はそれがわかりません。先日も寺で皆様があなたの事を悪く言われましたから、私は腹が立ちました。そしてあのかたは善《よ》い人です。あなたがたの思っているような人ではありませんと言ってやりました。
善鸞 私の事をどのように悪く申
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