増の女給と愛し合おうと、盲目の娘と将来を誓おうと、ただそれだけで是非をいうことはできない。恋愛の最高原理を運命におかずして、選択におくことは決して私の本意ではない。それは結婚の神聖と夫婦の結合の非功利性とを説明し得ない。私は「運命的な恋愛をせよ」と青年学生に最後にいわなければならないのだ。私自身は恋愛が選択を越えたものであることを認め、またそうした恋をせずには満足できなかったものだ。青年学生がそれに耐え得るほど強く、人生の猛者であり、損害と不幸とを顧みずして[#「して」に傍点]運命を愛する真の生活者でありたいならば、私はこの保身と幸福にはまるで不便な、「恋愛運命論」によって、その恋愛を指導することを勧めたい。
 われわれはちょうどわれわれの幸福と成功とに恰好な女性と、恰好な時機に、そうである故に[#「故に」に傍点]、恋に陥るとはかぎらない。何の内助の才能もなく、一生の負荷となるような女性と、きわめて不相応な時機に、ただ運命的な恋愛のみの故で、はなれ難く結びつくことはあり得るものだ。そして恋愛と結婚との真実の根拠はこの運命的な恋愛のみの上にあるのであって、その他は善悪とも付加条件にすぎな
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