眠っていて目ざめないことがあるものだ。こちらの熱情がそれを呼びさまし、相手の注意がこちらに向いて、ついに熱烈な相思の仲になることもあるものだ。先方が稚い娘であるときにそうしたことがある。が、それにはよほどの熱誠と忍耐とがいるものだ。
が、それにもかかわらずどうしてもうまくいかぬことがある。これが失恋のひとつの場合である。その淋しさはいうまでもない。この寂寥を経験した人は実に多い。
それから誓いあった相手に裏切られた場合がある。今ひとつは相手に死なれた場合だ。このいずれの場合にも、その悲傷は実に深い。しかし人間はこの寂寥と悲傷とを真直ぐに耐えて打ち克つときに必ず成長する。たましいは深みと輝きをます。そのとき自暴になったり、女性呪詛者になったり、悲しみにくず折れてしまってはならぬ。思いが深かっただけ傷は深く、軽い慰めの語はむしろ心なき業であるが、しかも忍び通さねばならないのだ。これを正しく忍び通した者は一生動かない精神的態度の純潤性と深みとを得る。死なれた場合が最も悲しみが永い。しかしこれとても時と摂理のいやしの力が必ず働くものだ。いやされるということさえもかえって淋しいことなのだが、
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