をつけて、「僕を愛してくれますか」ときこうかと真面目に思ったことがある。そんなときは一番危ない。これはそんなに焦《あせ》らずとも、待っていれば運命は必ずチャンスを与えるのだ。自分がまだごく若く、青春がまだまだ永いことが自分に考えられないのだ。二十五歳まで学生時代全然チャンスがなくっても心配することはない。ましてそんなことはあり得ないことだ。恋愛のチャンス、女を知[#「知」に傍点]る機会にこと欠くようなことは絶対にない。ヴィナスが自分の番をかえりみてくれる摂理を待つべきだ。学生の場合早すぎるのは危険な場合が多いが、遅いのは心配することはない。

       恋をあさる害毒

 その青春時代を早期から、多くの恋愛を経験したいというような考えは捨て去らねばならぬ。何故なら、自分たちはいま結婚前であり、その準備時期にあることを忘れてはならないからだ。美しい恋愛から結婚に入らねばならぬ。それは人生の大儀だ。結婚後に性の問題に多少心ゆるむことはまだしも許される。結婚前には心を張り、体を清くして、美しい恋愛に用意していなければならぬ。自分の妻を、子どもの母をきめんための恋愛だからだ。結婚前に遊戯恋
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