い知性や高い意志で抑えねばならぬ。私の場合ではそれほどでもない女性に、目くもって勝手に幻影を描いて、それまで磨いてきた哲学的知性もどこへやら、一人相撲をとって、独り大|負傷《けが》をしたようなものだ。これは知性上から見て恥である。
飢えと焦り
青年はあまり恋に飢え、恋の理想が強いとこうした間違いをする。相手をよく評価せずに偶像崇拝に陥る。相手の分不相応な大きな注文を盛りあげて、自分でひとり幻滅する。相手の異性をよく見わけることは何より肝要なことだ。恋してからは目が狂いがちだから、恋するまでに自分の発情を慎しんで知性を働らかせなければならぬ。よほどのロマンチストでない限り、一と目で恋には落ちぬ。二た目でそれほどでないと思えば憧憬は冷却する。自分で、自分を溺らすのが一番いけない。それほどでもない異性を恋して、大きな傷を受けるほど愚かしいことはない。
ときとして、性格によっては、恋人が欲しくてたえられないときがあるものだ。それは愛と美との要求が高まって相手が欲しくてたまらなくなるのだが、そんなとき気違いじみたことを考えるものだ。私は上野公園で音楽学校の女生徒をいちいち後
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