ことを飢え求めた。
私の傍を種々なる女の影が通りすぎた。私はまず女のコンヴェンショナルなのに驚いた。卑怯なのにあきれた。男性の偉大なる人格の要求を容れることのできない小さなのに失望した。私は若さまと嬢さまとの間に成り立つような甘い一方の恋がほしいのではない。生命と生命との慟哭《どうこく》せんほどの抱擁がほしいのだ。私が深く突っ込むとき私はみな逃げられた。気味悪がられた。私は私の深刻なる真面目なる努力が遊戯にしてしまわれはしまいかと心配せずに女を求むることはできなかった。私は処女は駄目なんだろうかと思った。酒と肉と惑溺《わくでき》との間には熱い涙がある。その涙のなかにこそ生命を痛感せる女がいるかもしれないと思った。私は非常識にも色街の女に人格的な恋を求めに行った。私はこんなところへも肉を漁りに行かなかった。私は童貞であったが、ゆえあって私の生殖器は病的に無能力であったのである。ただ魂でも、肉でもない、私の全部生命を容れてくれるような女を求めに行ったのだ。けれどもそれは失望に終わった。あの艶々《つやつや》しい黒髪としなやかな白い肌、その美しい肉体のなかに、どうしてこんな下劣な魂が宿ってるのであろうかと不思議でならなかった。私はその肉体美だけを彼らから剥《は》ぎ取ってやりたいほどに思った。女はなぜこんなに駄目なのであろう。私は腹が立つよりも悲しかった。やむなくば「女」を撲滅しなければならない。そして女の肉だけを残さなければならないと思った。
私のように女性に対して要求の強いものは女によって充実することはとうていできないのかもしれない。現実の女はみな浅薄なコンヴェンショナルな女ばかりなのかもしれない。私のようなコンヴェンションの目から見て不健全千万な男性を受け容れてくれる女はいないのかもしれない。ああ男性に死を肯定せしむるほどの女性はないだろうか。それはイデアリストの空なる望みにすぎないのであろうか。私はこう思えば重たいためいきを吐かずにはいられなかった。
思えば私は対人関係に深く頭を突っ込んでここまで進んで来た。それはなかなかの思いではなかった。私は女に充実が求められなくて何に充実が求められよう。私はここまで来て引きかえすのは残念でたまらない。とてもそんなことはできない。ぶつかりたい。ぶつかりたい。偉大な価値と意義ある生命のクライシスにぶつかりたい。そして生命の全
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