直に打ち明けて「術書」の譲りを受けようか。なかなか譲ってはくれないだろう。……うん、そうだ。忍び込んでやろう。俺は忍術葉迦流では、これでも一流の境《いき》にある。目付けられたら夫れまでだ。叩っ切って了えばいい。旨く術書が探ぐりあたれば、そのまま持って逃げる迄だ。よし、今夜忍び込んでやろう」

     四

 忍術も支那から来たものである。六門遁甲が根本である。「武備志」遁用術も其一つだ。
 しかし忍術は日本に於て、支那以上に発達した。それは日本人が体が小さく、敏捷であったが為である。
 忍術の根本は五遁にある。即ち水火木金土だ。
 ところで葉迦流は水遁を主とし、葉迦良門の開いたもので、上杉謙信の家臣である。
「滴水を以て基となす」
 こう極意書に記されてある。
 一滴の雨滴が地面に落ちる。それをピョンと飛び越すのである。二滴の雨滴が地面へ落ちる。それを復ピョンと飛び越すのである。
 雨滴はだんだん量を増す。地面の水域が広くなる。それをピョンピョン飛び越すのである。
 しまいには池となり沼となる。もう其頃には人間の方も、それを平気で飛び越す程の力量が備わっているのである。
 これ葉迦流
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