れたものか、鵞湖仙人という老人が、何時の間にか手に入れて、ちゃんと蔵っているのであった。
それを何うして嗅ぎ付けたものか、由井正雪が嗅ぎ付けて、それを仙人から奪い取ろうと、遙々江戸から来たのであった。
物語は三日経過する。
此処は天竜の上流である。
一宇の宏大な屋敷がある。
薬草の匂いがプンプンする。花が爛漫と咲いている。
鵞湖仙人の屋敷である。
その仙人の屋敷の附近へ、一人の侍がやって来た。他ならぬ由井正雪である。
先ず立って見廻わした。
「ううむ、流石は鵞湖仙人、屋敷の構えに隙が無い。……戌亥にあたって丘があり、辰巳に向かって池がある。それが屋敷を夾んでいる。福徳遠方より来たるの相だ。即ち東南には運気を起し、西北には黄金の礎《いしずえ》を据える。……真南に流水真西に砂道。……高名栄誉に達するの姿だ。……坤《ひつじさる》巽《たつみ》に竹林家を守り、乾《いぬい》艮《うしとら》に岡山屋敷に備う。これ陰陽和合の証だ。……ひとつ間取りを見てやろう」
で、正雪は丘へ上った。
「ははあ、八九の間取りだな。……財集まり福来たり、一族和合延命という図だ。……ええと此方が八一の間取
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