そこで筆は必然的に、枹木子に就いて揮わなければならない。
 ところが洵に残念なことには、枹木子の著者は不明なのである。これほど素晴らしい本の著者が、不明というのは不思議であるが、しかし一方から見る時は、不明の方が本当かもしれない。屹度神仙が作ったんだろう、と云ってた方が勿体が付いて、却って有難くもなるのだから、尤も一説による時は、葛洪《かっこう》という人の著書だそうだ。
 ところで枹木子は内篇二十篇外篇五十二篇という大部の本だ。詳しい紹介は他日を待ってすることにしよう。
 枹木子は妖術の根本書で、非常に非常に可い本である! ただ是だけでいいでは無いか。
 だが、本当を云う時は、この枹木子は妖術書では無くて、仙術の本という可きである。
 で、真実の妖術書といえば、その枹木子の精粋を取り、更に他方面の説術を加味した「南宗派乾流」という本なのである。

     三

 その有名な妖術書の「南宗派乾流」は足利時代に、第一巻九重天だけ、日本へ渡って来たのである。第一巻九重篇だけでも、どうしてどうして素晴らしいもので、それを体得しさえしたら、どんな事でも出来るのだそうだ。
 それを何うして手に入
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