が、とうとう諦めて帰られたな。どうやら葉迦流をお学びと見える、が、まだまだ少しお若い。あれでは固めは破れぬよ」
「畜生」と正雪は腹の中「爺め、何んでも知っていやがる」しかし彼は屈しなかった。
彼は一膝グイと進めた。
「が、流石のご老人も、幽霊船にはお困りのようだな」
「さて、そいつだ」と老人は、繃帯した右手を膝へ置いたが「余人ならぬ正雪殿だ、真実の所をお話しするが、仰せの通り、あれには参った」
「ご老人ほどの方術家にも、どうにもならぬと見えますな」
「天人にも五衰あり、仙人にも七難がござる。……死霊だけには手が出ない」
「歌に就いてのお考えは?」
「え、歌だって? なんの歌かな?」
「彼奴等の歌ったあの歌でござる」
「あああれか[#「あれか」に傍点]、考えて見た。……が、どうも解らない」
「ところが拙者には解って居る」
「ふうん、さようかな、その意味は?」
「不可ない不可ない」と手を振った。「そう安くは明されぬて」
「さようか、それでは聞かぬ迄だ」老人、不快そうに横を向いた。
「ところで一つお聞きしたい」正雪は老人を見詰め乍ら「あのご婦人はお娘御かな?」
「さようでござる、孫娘で」
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