「どうして活きて戻られたな?」
「いや夫れは毎晩でござる。毎晩彼奴等が征めて来ては、あの娘を死骸とし、船へ運んで虐んだ後、活かして返してよこすのでござる。……可哀そうなのは孫娘でござる。だんだん衰弱いたしてな、……つまりわし[#「わし」に傍点]には祟れぬので、そこで弱い娘に祟り、わし[#「わし」に傍点]を間接に苦しめるのでござるよ」
「老人、何か過去に於いて殺生なことはなされぬかな?」
「いいや、断じて」と老人は云った。「わしはこれでも方術家、一切罪悪は犯していませぬ」
「今後はなんとなされますな?」
「手が出ませぬ。捨てて置きます」
「お娘御のお命は?」
「可哀そうに、死にましょう」
「拙者、退治て進ぜよう」正雪は復も膝を進めた。
「いかがでござろう、褒美として、秘巻はお譲り下さるまいか」
 老人はじっと考え込んだ。それから徐ろに口をひらいた。
「最早秘巻此わし[#「わし」に傍点]には、殆ど必要が無いのでござる。何故と云うに既にわし[#「わし」に傍点]は、秘巻の意味を知り尽したからで、そこで他人に譲りたく、人材を求めたのでござる。その結果四人を目付けました。第一が他ならぬご貴殿でござ
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