びたり縮んだりするのである。床の間も無ければ違い棚も無い。一切装飾が無いのである。
気味が悪くて仕方が無かった。
「ううむ、こいつは遣られたかな」
正雪は心を落ち着けようとした。彼は眼を据えて板敷を見た。と不思議な筋があった。その筋は三本あった。部屋の一方の片隅から、斜めに部屋を貫いていた。
それを見た正雪はブルブルと顫えた。しかし恐怖の顫えでは無く、それは怒りの顫えであった。
「巽から始まった天地人の筋、一つは坤兌《こんだ》の間を走り、一つは乾に向かっている。最下の筋は坎を貫く!」彼はバリバリと歯を噛んだ。
矢庭に抜いた腰の小柄、ブツーリ突いたは板敷の真中! 途端に「痛い!」と云う声がした。
その瞬間に正雪は、もんどり[#「もんどり」に傍点]打って投げ出された。
飛び起きた時には其部屋は無く、全く別の部屋があった。
違い棚もあれば床の間もある。床の間には寒椿が活けてある。棚の上には香爐があり、縷々《るる》として煙は立っている。襖もあれば畳もある。普通の立派な座敷であった。
床の間を背にして坐っているのは、他でも無い鵞湖仙人、渋面を作って右の掌を、紙でしっかり[#「しっ
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