われなる武士の将
霊こそは悲しけれ
うずもれしその柩
在りし頃たたかいぬ
いまは無し古骨の地
下ざまの愚なる
つつしめよ。おお必ず
不二の山しらたえや
きよらとも、あわれ浄《きよ》し
不二の山しらたえや
しらたえや、むべも可
建てしいさおし。
[#ここで字下げ終わり]
訳のわからない歌であった。しかし其節は悲し気であった。くり返しくり返し歌う声がした。そうして歌い振りに抑揚があった。或所は力を入れ或所は力を抜いた。
由井正雪は腹這ったまま、じっと歌声に耳を澄ました。
くり返しくり返し聞える歌!
深夜である。
山中である。
その歌声の物凄さ!
六
復も土塀から甲冑武者が、恰も大水が溢れるように、ムクムクムクムクと現れ出た。
彼等は何物かを担いでいた。
数人が頭上に担いでいた。女である! 女の死骸だ! 窓から顔を差し出して「幽霊船!」と叫んだ女だ! その死骸を担いでいる。
走る走る甲冑武者が走る。
竹藪を通って天竜の方へ!
或者は正雪の頭を踏んだ。或者は彼の足を踏んだ。そうして或者は手を踏んだ。矢張り重量は感じない。
彼等は川の方へ走って行った。そう
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