大勢通るにもかかわらず、竹藪はそよ[#「そよ」に傍点]との音も立て無い。一片の葉さえ戦《そよ》がない。彼等には形さえ無いと見える。
いやいや併しハッキリと、恐ろしい形が見えるでは無いか! 甲冑をよそった骸骨の形が! そうだ、それは確かに見える! だが夫れは見えるばかりだ。物質としての容積を、只彼等は持っていないのだ!
即ち彼等は幽霊なのだ!
幽霊船の幽霊武者! そいつが仙人の屋敷を目掛け、まっしぐら[#「まっしぐら」に傍点]に走って行くのである。
物凄い光景と云わざるを得ない。
幽霊武者は一団となり、土塀の裾へ集まった。
と、彼等は土塀をくぐり、サッと屋敷内へ乱入した。勿論土塀には穴が無い。それにもかかわらず潜ったのだ。
湧き起ったのは女の悲鳴!
「ヒーッ」という魂消える声! つづいて老人の呶鳴り声! 鵞湖仙人の声らしい。討物の音、倒れる音、ワーッという閧声! ガラガラと物の崩れる音。
「お爺様! お爺様! お爺様!」
「おお娘、しっかりしろ!」
ドッと笑う大勢の声。
「ヒーッ」と復も女の悲鳴。
意外! 歌声が湧き起った。
[#ここから2字下げ]
武士のあわれなる
あ
前へ
次へ
全24ページ中14ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング