を朦朧と照している。
 人々は甲冑を鎧っている。手に手に討物を持っている。槍、薙刀、楯、弓矢。……
 おお然うして夫れ等の人は、鵞湖仙人の屋敷の方へ、挙って指を指している。何やら罵っているらしい。しかし話声は聞えない。
 彼等はみんな[#「みんな」に傍点]痩せていた。
 と、続々甲板から、水の中に飛び込んだ。十人、二十人、三十人。……しかも彼等は溺れなかった。彼等は水の上に立っていた。
 飛ぶように水面を走り乍ら、続々と岸へ上って来た。彼等は岸へ勢揃いした。それから颯っと走り出した。
 鵞湖仙人の屋敷の方へ!
 近寄るままによく[#「よく」に傍点]見れば、彼等はいずれも骸骨であった。眼のある辺には穴があり、鼻のある辺には穴があり、口のある辺には歯ばかりが、数十本ズラリと並んでいた。
 甲冑がサクサク触れ合った。骨と骨とがキチキチと鳴った。
 竹藪の方へ走って来る。
 流石の正雪もウーンと唸った。すっかり度胆を抜かれたのである。
 彼は地面へ腹這いになった。
 サーッと彼等は走って来た。彼等の或者は正雪の背中を、土足のままで踏んで通った。しかし少しの重量も無い。彼等には重量が無いらしい。
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