俤がなくなったので、それが士気に影響して、鎮江が陥落しないのだと、そんなように云う人間もあった。しかし参謀長のグレーの方は、益々壮健で頭脳も明晰だから、早晩彼の策戦で、鎮江は陥落するだろうと、そんなように云う人間もあった。
さて僕だが上海へ帰るや、例によって例の如く、鴉片窟や私娼窟へ入り浸って、その日その日をくらしたものさ。
そこで君は不思議に思うだろうね、僕という人間が生活基礎を、どういうものに置いていて、そんな耽溺的生活に、毎日耽ることが出来るのかと?
5
それについてはいずれ語ろう。
そう、いずれ語るとしよう。が、今はそんなことより、その後僕が遭遇した、世にも奇怪な出来事について、消息する方がいいようだ。
友よ、それから一カ月経った。
その時僕の家の玄関に、厠で使う紙の面に、
「明後日迎いに参る可《べ》く候」
こういう意味の文字が書かれてあり、心臓に征矢《そや》を突き刺した絵が、赤い色で描かれたものが、針によって止められていた。
これには説明がいるようだから、一つ説明することにする。
上海には上流の女ばかりによって、形成されている秘密倶楽部がある。
「加華荘舎
前へ
次へ
全23ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング