不意に道の角を廻り、この辺りに珍しい二頭立の、立派な馬車が現われたが、その上に海軍の将校服をつけた、半白の髪をした英国人と、支那少年とが同乗していた。
僕は以前上海の地で、英国の水師提督エリオットを、一二度見かけたことがあって、容貌風采を知っていたので、馬車中の老将校がエリオットであることを、僕は早くも見て取ることが出来た。
娼公、俳優とでも云いたいような、艶かしい装いをした支那少年は? エリオットと同乗していた支那少年は? 友よそれこそ宋思芳だったのだ!
その証拠にはその少年は、僕を見かけると微笑して、軽く一揖《いちゆう》したのだからね。
では先刻の支那美人は! グレーと同伴していた支那美人は?
解《わか》らない! 解らない! 解らない!
僕は上海へ帰って来た。
鎮江は容易に陥落しなかった。
いろいろの噂が伝わった。鎮江は揚子江の咽喉で、地勢は雄勝で且つ奇絶、頗《すこぶ》る天険に富んでいる。そこへ清軍の精鋭が集まり、死守しているのでさすがの英軍も、陥落させることが出来ないのだと、そういう人間があるかと思うと、水師提督のエリオットが健康を害し、かつ頭を悪くして、昔日の
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