飄々|乎《こ》として遣って来た。
「おお李白か、いい所へ来た。……お前、渤海語が解《わか》るかな?」
「私、日本語でも解ります。まして謂んや渤海語など」
「それは有難い。これを読んでくれ」
 渤海の国書を突き出した。
 李白は一通り眼を通した。
「では唐音に訳しましょう」
 そこで彼は声高く読んだ。
「渤海|奇毒《きどく》の書、唐朝官家に達す。爾《なんじ》、高麗《こうらい》を占領せしより、吾国の近辺に迫り、兵|屡《しばしば》吾|界《さかい》を犯す。おもうに官家の意に出でむ。俺《われ》如今《じょこん》耐《た》うべからず。官を差し来り講じ、高麗一百七十六城を将《もっ》て、俺に讓与せよ。俺好物事あり、相送らむ。太白山の兎、南海の昆布、柵城の鼓、扶余《ふよ》の鹿、鄭頡《ていきつ》の豚、率賓《そつびん》の馬、沃州綿《ようしゅうめん》[#ルビの「ようしゅうめん」は底本では「ようしうめん」]、※[#「さんずい+眉」、第3水準1−86−89]泌河《びんひつが》の鮒、九都の杏、楽遊《がくゆう》の梨、爾、官家すべて分あり。若《も》し高麗を還《かえ》すことを肯んぜずば、俺、兵を起こし来たって厮殺せむ。且《
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