か》つ那家《いずれ》が勝敗するかを看よ」
皇帝はじめ文武百官は、すっかり顔色を変えてしまった。
「いま辺境に騒がせられては、ちょっと防ぐに策はない。一体どうしたらいいだろう」
風流皇帝の顔色には、憂が深く織り込まれた。
誰一人献策する者がなかった。
5
すると李白が笑いながら云った。
「文章で嚇《おど》して来たのです、文章で嚇して帰しましょう。蕃使をお招きなさりませ、私、面前で蕃書を認め、嚇しつけてやることに致します」
翌日蕃使を入朝せしめた。
皇帝を真中に顯官が竝んだ。
紗帽《さぼう》を冠り、白紫衣《はくしい》を着け、飄々と李白が現われた。勿論微醺を帯びていた。
座に就《つ》くと筆を握り、一揮して蕃書を完成した。
まず唐音で読み上げた。
「大唐天宝皇帝、渤海の奇毒に詔諭す。むかしより石卵は敵せず、蛇龍は闘わず。本朝運に応じ、天を開き四海を撫有し、将は勇、卒は精、甲は堅、兵は鋭なり。頡利《きつり》は盟に背いて擒《とりこ》にせられ、普賛《ふさん》は鵞を鑄って誓を入れ、新羅《しらぎ》は繊錦の頌を奏し、天竺《てんじく》は能言の鳥を致し、沈斯《ちんし》は捕鼠の蛇を献じ、払林
前へ
次へ
全24ページ中17ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング