のみすぼらしい家に、お北によく似た若い女を、見掛けたことがございました。でもそれはたった一度だけで、後はいつもその家は、雨戸がしまっておりましたので、見かけることは出来ませんでした。それでも気になるところから、毎夜のようにそのあたりを、彷徨《さまよ》ったものでございます。そのうち秋が冬となり、年が明けて春となり、昨夜となったのでございますが、いつもの通りお霜を連れて、信濃追分をうたいながら、隅田の方へ参りました。そうしてその家の前に立ち、しばらく様子をうかがってから、堤を歩いて行きました。と、ご承知のようによい月夜で、おりから桜は満開ではあり、つい私はよい気持ちになり、次々にうたいながら歩いて行きますと、後の方から何者か、つけて来るではございませんか。ふと振り返って見ましたが、それらしい人の影もない。不思議なことと思いながら、また歩いて行きますと、やっぱり足音が致します。春の月夜にうかれ出た。狐か狸のいたずらであろうと、そのまま歩いて参りますと、ピタピタピタピタと足音が、近付いて来るではございませんか。で、振り返ってみましたところ、山岡頭巾で顔を包んだ、一人の武士が一間の背後《うしろ》
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