名人地獄
国枝史郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)提灯《ちょうちん》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一|閑斎《かんさい》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)溌※[#「さんずい+刺」、21−8]
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    消えた提灯《ちょうちん》、女の悲鳴

「……雪の夜半《よわ》、雪の夜半……どうも上《かみ》の句が出ないわい」
 寮のあるじはつぶやいた。今、パッチリ好《よ》い石を置いて、ちょっと余裕が出来たのであった。
「まずゆっくりお考えなされ。そこで愚老は雪一見」
 立ち上がったあるじは障子を開けて、縁の方へ出て行った。
「降ったる雪かな、降りも降ったり、ざっと三寸は積もったかな。……今年の最後の雪でもあろうか、これからだんだん暖かくなろうよ」
「しかし随分寒うござるな」
 侍客はこういって、じっと盤面を睨んでいたが、「きちがい雪の寒いことわ」
「……雪の夜半、雪の夜半……」あるじは雪景色を眺めていた。
「よい上の句が出ないと見える
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