」
「よい打ち手がめつからぬと見える」
二人は哄然《こうぜん》と笑い合った。
「これからだんだん暖かくなろう」あるじはまたも呟《つぶや》いた。
「しかし今日は寒うござるな」侍客がまぜっかえす。
「さよう。しかし余寒でござるよ」
「余寒で一句出来ませんかな」「さようさ、何かでっち上げましょうかな。下萠《したもえ》、雪解《ゆきげ》、春浅し、残る鴨などはよい季題だ」「そろそろうぐいすの啼き合わせ会も、根岸あたりで催されましょう」
「盆石《ぼんせき》、香会《こうかい》、いや忙しいぞ」「しゃくやくの根分けもせずばならず」「喘息《ぜんそく》の手当もせずばならず」「アッハハハ、これはぶち壊しだ。もっともそういえば、しもやけあかぎれの、予防もせずばなりますまいよ」
「いよいよもって下《さ》がりましたな。下がったついでに食い物の詮議だ。ぼらにかれいにあさりなどが、そろそろしゅんにはいりましたな。鳩飯《はとめし》などは最もおつで」「ところが私《わし》は野菜党でな、うどにくわいにうぐいすな[#「うぐいすな」に傍点]ときたら、それこそ何よりの好物でござるよ。さわらびときたら眼がありませんな」「さといも。八ツ
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