?」
 その浪人は殺されていた。それの解ったのは翌朝のことで、隅田堤の桜の幹へ、五寸釘の手裏剣で、両眼と咽喉《のど》とを縫いつけられていた。
 奇抜といおうか惨酷といおうか、その不思議な殺され方は、江戸市中の評判となった。
「いったい誰が殺したのだろう?」人々はこういって噂した。
 もちろん甚内が殺したのであった。兄の敵の富士甚内を、浅間甚内が殺したのであった。

    浅間甚内復讐を語る

 どんな具合に巡り会い、どんな塩梅《あんばい》に立ち合って、兄の敵を討ったかについては、彼は恩師たる千葉周作へ、次のように話したということである。
「……とうとう本望をとげました。先生のお蔭でございます。一生忘れはいたしません。兄もどんなにか草葉の蔭で、喜んでいることでございましょう。おそらく修羅《しゅら》の妄執《もうしゅう》も、これで晴れたことでございましょう。……では、どうして敵と出会い、どんな具合に討ち止めたか、お話しすることに致します。なかばは偶然でございました。そうして後の半分は妹のおかげでございます。……追分をうたい、市中を流し、敵を目付けておりますうち、ふと隅田の片ほとり、小梅の里
前へ 次へ
全324ページ中318ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング