は感じたが、眼に遮る物影もない。

    忽然響き渡る鼓の音

 今年の最初の雪だというに、江戸に珍らしく五寸も積もり、藪も耕地も白一色、その雪明りに照らされて、遠方《おちかた》朦朧《もうろう》と見渡されたが、命ある何物をも見られなかった。
 行燈の灯が消えようとした。
 その向こう側に物影があった。
「誰!」
 といいながら隙《す》かして見たが、もちろん誰もいなかった。で、女房は溜息をした。
 鼬《いたち》が鼠を追うのであろう、天井で烈しい音がした。バラバラと煤が落ちて来た。
 すると今度は浪人がいった。
「肩から真っ赤に血を浴びて、坐っているのは何者だ!」
 そうして行燈の向こう側を、及び腰をして透かして見たが、
「ハ、ハ、ハ、何んにもいない」
 空洞《うつろ》のような声であった。
 二人はピッタリ寄り添った。しっかり手と手が握られた。二人に共通する恐怖感! それが二人を親しいものにした。
 冬なかばの夜であった。容易なことでは明けようともしない。丑満《うしみつ》には風さえ止むものであった。鼠も鼬も眠ったらしい。塵の音さえ聞こえそうであった。
 と、その時、ポン、ポン、ポンと、鼓
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