《つづみ》の音が聞こえて来た。
聞き覚えのある音であった。追分で聞いた鼓であった。江戸の能役者観世銀之丞が、追分一杯を驚かせて、時々調べた鼓の音だ。いいようもない美音の鼓、どうしてそれが忘られよう。
しかし打ち手は異うらしい。正調でもなければ乱曲でもない。それは素人の打ち方であった。
しかも深夜の静寂を貫き、一筋水のように鳴り渡った。
誰が調べているのだろう? 何んのために調べているのだろう? それも厳冬の雪の戸外で!
ポン、ポン、ポン!
ポン、ポン、ポン!
一音、一音が一つ一つ、冬夜の空間へ印を押すように、鮮やかにクッキリと抜けて響いた。
と、鼓は鳴り止んだ。
二人はホーッと溜息をした。
鼓の鳴り止んだその後は、鳴る前よりも静かになった。鳴る前よりも寂しくなった。
そうして凄くさえ思われた。
二人はビッショリ汗をかいていた。
その凄さ、その寂しさ、その静かさを掻き乱し、「泥棒!」という声のひびいたのは、それから間もなくのことであった。
戸のあく物音、走り廻る足音。「こっちだ」「あっちだ」「逃げた逃げた」詈《ののし》る声々の湧き上がったのも、それから間もなく
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