賊を、将軍たるものが助けたとあっては、上《かみ》ご一人に対しても、下《しも》万民に対しても、申し訳の立たない曲事であった。
「これが世間へ洩れようものなら、どんな大事が起ころうもしれぬ。早く手当をしなければならない」――で倉皇《そうこう》として家へ帰った。
ようやくわかった切り髪の女
「旦那お家でござんすかえ」
ご用聞きの松五郎が、こういいながら訪ねて来たのは、その同じ日の午後のことであった。「おお小松屋か、こっちへはいれ。……どうだ、大分寒くなったな」
玻璃窓の平八は炬燵の上で、市中図面を見ていたが、物憂そうに声をかけた。
「へい、有難う存じます。ではご免を蒙《こうむ》りまして。おや何かお調べ物で?」
「ナーニ江戸の図面だよ。俺《わし》も近頃は暇だからな、所在なさに見ているやつさ」
「お暇は結構でございますな」「やむを得ない暇なのさ」「やむを得ないはいけませんな」
すると平八は苦笑したが、「俺もこの頃はヤキが廻ったよ。どうも一向元気がない」「いよいよもっていけませんな」「と、いうのもあの事件|以来《から》だ」「鼓賊からでございますかな?」
すると平八は頷いたが、「
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