《ぬし》って者がなかったんだからね」「ところが主人《ぬし》が来るとなると、この通り大仰だ」「きっと主人はお金持ちで、あっちにもこっちにも別荘があるので、こんな辺鄙《へんぴ》な別荘なんか、今まで忘れていたのかもしれない」「それにしてもおかしいじゃないか、あの厳重な普請の仕方は」「ちょうど敵にでも攻められるのを、防ぐとでもいったような構えだね」「黙って黙って、ソレお通りだ」
そこへ行列がやって来た。
すると三番目の駕籠の戸が、コトンと内から開けられて、美しい女の顔が覗いた。
そそられた銀之丞の心
銀之丞は何気なくそっちを見た。
女の視線と銀之丞の視線が、偶然一つに結ばれた。と、女はどうしたものか、幽《かす》かではあるがニッと笑った。「おや」と銀之丞は思いながらも、その笑いにひき込まれて、思わず彼もニッと笑った。
と、駕籠の戸がポンと閉じ、そのまま行列は行き過ぎた。
はなれへ戻って来た銀之丞は、空想せざるを得なかった。
「悪くはないな、笑ってくれたんだ! だがいったいあの女は、おれをまえから知っていたのかしら? そんな訳はない知ってる筈はない。……とにかく非常な別嬪《
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