。乗っている四五人の人間は、諸国廻りの人買なのであった。
「この辺りでよかろう、舟を纜《もや》え」
 で小舟は岸へ寄せられ、傍らの杭に繋がれてしまった。
「さあさあ桐兵衛の隠家《かくれが》へ行こう」
 夕暗の逼ってきた京の町を、柏野の方へ歩き出した。
 しかるにこの頃北山の方から、異形の人数が五人揃って、京都の町の方角へ、陰森とした山路を伝いストストストストと下っていた。

24[#「24」は縦中横]

 一人は上品な老女であった。すなわち他ならぬ浮木《うきぎ》であった。
 後の四人は武士であった。が風俗は庭師である。その一人は銅兵衛《どうべえ》であり、もう一人は三郎太であった。その他の武士は部下らしい。
 そうしてこれ等は云う迄もなく、処女造庭境を支配している唐姫《からひめ》という女の家来なのであった。
「民弥という娘を捕らまえて、唐姫様のお言葉を、是非ともお伝えしなければならない」
 こう云ったのは浮木である。
「しかしくれぐれも云って置くが、決して手荒くあつかってはいけない。丁寧に親切にあつかわなければならない」
「かしこまりましてございます」
 こう云ったのは三郎太である。「丁
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