中であった。人に見られようが笑われようが、心に掛けようとはしなかった。一刻も早く右近丸様に、逢いたい逢いたいと思うのであった。
二人はズンズン走って行く。
22[#「22」は縦中横]
ここは柏野の一画である。
そこに一軒の家があった。
見掛けは極めて陰気ではあったが内は反対に陽気であった。
その陽気な奥の部屋に、十五六人の男がいた。
歌をうたっている者、酒を飲んでいる者、詈っている者、議論している者、取っ組み合っている者もある。いずれも兇相の連中である。その風俗も様々である。神主風の者もある。商人風の者もある。坊主風の者もある。武士姿をした者もあれば、香具師《やし》風をした者もある。老人もいれば若者もいる。女も二三人雑っている。
ガヤガヤみんな喋舌《しゃべ》っている。
「近来は思わしい仕事がない」
「こう不景気では仕方がない」
「地方へ行かなければならないだろう。都に仕事がないのだから」
「今日も戦、昨日《きのう》も戦、地方へ行くと戦ばかりだ、若武者の鎧を引っ剥いでも、相当の儲けはあるだろう」
「逃げまどう落城の女どもを引っ攫うのもいいだろう」
突然一人が歌い出した
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